[弁護士] 田巻 紘子
本日、名古屋地裁でトヨタの従業員について過労死を認める判決が出されました。
もともとこの事案は、労基署段階でも認定基準を満たすだけの時間外労働が認められるべきであったのに、豊田労働基準監督署長が不当な判断を行い、時間を削ったものです。
今回の判決は豊田労働基準監督署長の事実認定の誤りを明確に指摘したばかりでなく、次の2点についても画期的な判断をしました。
■QCサークル活動は業務
その一つが、トヨタ自動車における小集団活動(創意くふう提案、QCサークル活動などのカイゼン活動、交通安全活動、EX会という職制会の運営に携わる役員の仕事)を、業務として認めたことです。トヨタ自動車の営業利益2兆円の源泉となっているこれらの活動の業務性を認めたことの意義はとても大きいものです。
■夜勤の疲労もある
労働の質の問題にも立ち入り、深夜二交代勤務は慢性疲労をもたらすものであるということも明言しました。
弁護団声明
当日発表した弁護団の声明です。
弁護団声明
2007年11月30日
トヨタ過労死・内野裁判弁護団
本日、名古屋地方裁判所は、トヨタ自動車堤工場車体部品質物流課ライン外EXであった内野健一さん(以下被災者という)が、平成14年2月9日、二直勤務残業中に工場で倒れて心停止により死亡した件について、豊田労働基準監督署長が業務外とした決定に関し、この業務外の処分を取消す旨の判決を言い渡した。
この判決は、豊田労働基準監督署長が、被災者の直前1か月の労働について被災者は工場にいたものの雑談などをしていたため工場にいた労働時間が全て時間外労働にあたるものではないとし、45時間35分しか認めなかった判断を不当とし、被災者が工場内に残って雑談していたという主張を完全に斥け原告の申請にしたがい、106時間45分と認定した。この判断は極めて正当なものであり、本件においては本来、豊田労働基準監督署長の判断として示されていなければならないものである。
また、判決では被災者内野健一が従事していた業務の労働の質についても「職務の性質上、健一に比較的強い精神的ストレスをもたらしたというべき」と認め、被災当日(日付上は前日)のトラブルによるストレスについては「相当程度に強いストレス」として評価・判断した。加えて、深夜勤務を含む二交代勤務のストレスについても、「慢性疲労につながるものとして、業務の過重性の要因として考慮するのが相当である」と判断している。
さらに、判決においては、トヨタ自動車において残業代支払いの対象となっていない、創意くふう提案活動の作成・とりまとめ作業、EX会活動の役員としての作業についても、労災認定における業務負荷の判断にあたっては業務性を認め、業務負荷として考慮すべきことを明言した。この点は、営業利益2兆円を誇るトヨタ自動車の利益を支える「カイゼン活動」や小集団活動が、現在、同社において無償労働として扱われていることに対し、厳しく糾弾したものである。
当弁護団は、厚生労働省、愛知労働局長、豊田労働基準監督署長が、本判決を真摯に受けとめ、控訴しないように強く求めると共に、今後の過労死事件における労働時間の認定の在り方及び被災者の所属企業に対する調査の行い方について、遺族援護という労働者災害補償保険法の趣旨に則った調査・認定を行うことを要請するものである。
以上
弁護団
弁護団は、水野幹男弁護士のほか、当事務所の岩井羊一、田巻紘子、大辻美玲。田巻弁護士が主任です。
2007年12月の記事