[弁護士]田巻 紘子
■勤労挺身隊訴訟とは……
朝鮮女子勤労挺身隊とは、戦中、日本が殖民地支配をしていた朝鮮半島から、国民学校卒業間近・直後の少女達に対して「日本に行けば女学校で学べる」「ご飯を食べれる」等と嘘をついて勧誘して日本へ連行し、軍需工場で働かせ、日本敗戦とともに何の賃金も支払わずに送り返したものです。
名古屋では名古屋三菱へ強制連行・労働させられていた少女達が、国と三菱重工業に対し、奪われた人生の被害への謝罪と償いを求め、1999年3月に訴訟を提起しました。2005年3月に名古屋地裁が韓日請求権協定を理由に請求を棄却したため、控訴審で引き続き救済を求めていました。
2006年12月に控訴審が結審し、2007年5月31日に判決が言い渡されたのです。原告のハルモニたちは70代半ばを過ぎ、救済が待たれていました。
■大きく前進した名古屋高裁の判決
名古屋高裁判決は、しかしながら、原告の訴えを認めることはしませんでした。地裁判決と同様、1965年の韓日請求権協定によって原告らの請求を認めない判断を行ったのです。
ですが、高裁判決には大きな前進がありました。
1点目は、原告が強制連行・強制労働を受けたとはっきり認めたことです。とくに女性でありかつ子どもである原告らに対する強制連行・強制労働は違法であり、「個人の尊厳を否定し、正義・公平に著しく反する行為と言わざるを得ない」とはっきり認めました。
2点目は、日本が朝鮮半島において朝鮮女子勤労挺身隊の動員に先立ち、大量に動員した軍「慰安婦」の動員・被害の実態を明らかにしなかったために軍「慰安婦」が帰国後被った人生被害と同一の被害を勤労挺身隊員が被ったことを明確に認めたためである。
3点目は、その上で、国には強制連行・強制労働についての民法上の不法行為による損害賠償責任を負うと認めました。国側が、責任を負わないことの根拠にしている「国家無答責」(明治憲法下では国には不法行為責任はないということ)の法理は存在しないと認められたのです。結論は韓日請求権協定により国には賠償請求に「応じる法的義務はない」という、常識に沿わない結論になりましたが、国に強制連行・強制労働に対する賠償責任があることを正面から認めた裁判例は初めてです。
4点目は、強制労働先企業の三菱重工業も、原告らの強制連行・強制労働についての民法上の不法行為責任を負う余地があると認めた点です。三菱重工業はこの点、戦前の三菱と戦後の三菱は別会社であると主張していましたが、実態としてそれは認められないとはっきり判断されました。
名古屋高裁判決は結論としては、今年4月に出された最高裁判決の枠組みに従い、原告らの請求する権利はあるが韓日請求権協定により、請求を受ける側に「応じる法的義務がない」という判断を出しました。ですが、以上の4点は今後、原告らの救済を図るための大きな足がかりを与えました。
■生きているうちに「恨」を晴らす活動を
名古屋高裁判決の判断を受けて日韓の支援者と弁護団は、原告らが一刻も早く償いを得るための活動を開始しました。4月に出された西松建設事件に関する最高裁判決も、強制連行を行った企業の責任を認めつつ、結論として救済を認めなかったものであり、日本政府と日本企業が自ら行った加害行為に対する償いをすることは、道理上からも要請されていることです。
裁判としては上告して最高裁を舞台とする裁判になりますが、三菱重工業と日本政府に責任があるという名古屋高裁の判断を十分に生かし、生きているうちにその「恨」を晴らすために活動していきます。引き続き、ご支援をよろしくお願い致します。
TEL&FAX 052-762-1528(高橋信)/TEL&FAX 052-731-9445(小出裕)
2007年8月の記事