[弁護士]竹内 平・[弁護士]濵嶌 将周
石川島播磨重工業による従業員の思想差別·女性差別が和解解決しました!
本年1月19日、重工業最大手のひとつである石播島播磨重工業(以下「石播」)と同社の6事業所の従業員168名(退職者、故人を含む)(以下「申告者」)との間で、画期的な和解が成立しました。
1.事件の概要
石播は、60年代後半から、労務管理・職制機構よって社内の共産党員およびその支持者を徹底把握し、それら従業員を昇給・昇格、仕事内容、さらには花見や送別会といった行事に至るまで徹底差別してきました(女性従業員については、これに女性差別が加わりました)。愛知地区においても同様で、例えば希望退職に応じないことを口実にして申告者の仕事を取り上げて炎天下での草むしりを強要したこともありました。
こうした中、1976年以降、一部申告者を含む従業員らが東京地方労働委員会に対して賃金等の差別の是正を求める不当労働行為救済申立に及ぶなどし、1998年、中央労働委員会において和解が成立しました。2000年には、武蔵地区の従業員9名が東京地裁に思想差別の是正と賠償等を求めて提訴し、2004年、同地裁において和解が成立しました。
この武蔵和解では、石播が、武蔵原告以外の従業員についても差別を是正し、そのために誠実に対応するとの合意がなされました。しかし、反共労務政策はなお堅持され続けたため、この合意に基づき、各事業所の申告者は順次、思想差別・女性差別の是正と賠償および再発防止を求めて、石播との交渉を重ねてきました。
2.差別的労務管理の露顕
石播の差別的労務管理がいかに会社ぐるみの徹底したものであるかについて、その実態を示す資料の存在が明らかになっています。その一つは、「ZC(ゼロコミュニスト=共産党員撲滅)計画管理名簿」であり(当時石播に在籍していた申告者は一様に名簿登載者でした)、もう一つが、「個別管理計画」です(申告者について、最も長い者では21年間にわたり、定年時までの毎年の職能等級を予め定めて、低位に抑える計画でした)。すなわち、一旦目を付けられた従業員は、その後いくら努力しても、それに見合った昇格・昇給はありえなかったのです。
3.今回の和解の意義
申告者・弁護団は、上記資料を会社に突き付けて交渉を続け(もっとも、石播は、それらを会社ぐるみで作成したことは認めていませんが)、同時に労基署等への申し入れや街宣活動を続け、ついに全面的和解の成立に至りました。
今回の和解の特徴としては、第一に、石播が差別的な人事管理が行われたと受け止められてもやむをえない状況があったことを認めて、思想差別について明確に「反省」の意思を示したことが挙げられます。併せて、思想差別・女性差別を再発させない労務政策を約束させ、労務政策の変更をも明言させました。その具体的方策として、不当な人事考課、仕事の取り上げ、職場行事からの排除等の職場における「やってはならない」差別を詳細に示し、これを全従業員に周知、徹底することが約束されました。職場行事における全従業員への声掛けを励行しない従業員や団体に対しては、行事の中止勧告と便宜供与の禁止措置が執られることにもなりました。
特徴の第二は、差別の是正の徹底です。在職者44名の職能等級、基準賃金、退職金本給を抜本的に是正させ、全申告者(時効も問題になりうる退職者も含まれる)の過去の賃金差別と人権侵害の賠償をさせることができました。また、差別した査定を口実に拒否された再雇用の復元、隔離を目的にした出向の解除、見せしめで取り上げられた技術職への復帰なども実現しました。
特徴の第三は、こういった画期的和解に、裁判等を経ずに至ったことです。
今回の和解は、全国各地において展開されてきた大企業に対する差別撤廃のたたかいの今日の到達点を示すものであり、多くの労働者への力強い励ましになるものと思います。一致団結してこのような和解を勝ち取った申告者らに、あらためて深く敬意を表します。
2007年3月の記事