[弁護士]勝田 浩司
トヨタ自動車のシャシー設計部門の係長であったAさんが、うつ病に罹患して自殺した事件で、名古屋高等裁判所は、本年7月8日に、労災認定を否定した豊田労働基準監督署の処分を取り消す旨の第一審判決を支持し、労基署側の控訴を棄却する判決を出しました。
トヨタでは自動車設計業務に厳格な期限があり、Aさんの業務は遅れ気味で、高密度労働に加えて不安や焦りを募らせ、ストレスが蓄積することになりました。
労働省(当時)は平成11年に「判断指針」を打ち出しましたが、Aさんのケースはその基準に当てはまらないとして労災認定が否定されました。 これに対し、第一審判決は、「同職の労働者の中で最も弱い者を基準とすべきだ」と判断して、Aさんの業務の過重性を認めました。
そして、控訴審判決は、第一審の判断を基本的に維持しつつ、「日本のトップ企業のなかにおいて、…生産効率を重視した会社の方針に基づき…いわゆる会社人間として仕事優先の生活をして…中間管理職として恒常的に時間外労働を行ってきた実情を踏まえて判断する必要がある」とまで述べており、Aさんの労働の実質を極めて正当に判断しています。
この控訴審判決に対して労基署側は上告を断念し、判決が確定したため、Aさんの妻は労災の遺族補償年金を受け取れることになりました。
第一、二審とも原告勝訴の判決が出され、労基署側が上告を断念したことは大きな意義があり、過労死のない社会に向けて新たな一ページを記すと言えるでしょう。
2003年8月の記事